牧師の聖書コラム

 

第4回 「正義と平和が口づけする」
上林順一郎

 先月の8月28日、総理大臣として7年8カ月という最長の在任記録を作ったばかりの安倍首相が病気を理由に突然退任を表明しました。「安倍一強」と言われ、日本の政治を思い通りにしてきた権力者の最後の瞬間でした。しかし、その政治の結果はアベノミクスという経済拡大主義による格差の拡大、抑圧的な言動による対立の激化、コロナ感染の拡大に対するチグハグナ対応など、レガシー(政治的遺産)も見るべきものを残さないで退任となりました。
 その退任の日と同じ8月28日、アメリカ・ワシントン市では黒人の生命と自由・平等を求める大集会が行われました。それは57年前の1963年8月28日、同じワシントン市の広場に25万人もの大群衆が集まり、差別撤廃と自由を求めた「ワシントン大行進」が行われた日を記念する集会でした。
 57年前のその日、大群衆を前にして一人の牧師が演説を行いました。彼は人々に向かって叫びます。「I have a dream、わたしには夢がある」その牧師とはマルティン・ルター・キングです。「わたしには夢がある。それはいつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちと、かつて奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である」。しかし57年経ったいま、キング牧師の語った夢は実現したのでしょうか。
 最近、アメリカ各地において警官による黒人への発砲事件が相次ぎ、何人かの黒人が殺害されています。それに抗議してデモを行う人々は「No justice,No peace,正義のないところに平和はない」と訴えています。これはキング牧師の言葉です。
 間もなく、日本とアメリカにおいて国の指導者を選ぶ選挙が行われます。どのような人が選ばれるかは分かりませんが、少なくとも「I have a dream」と、高らかに夢を語れる人であってほしいと願います。「慈しみとまことは出会い、正義と平和は口づけする」(詩編85:11)という夢を。

2020年9月


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