牧師の聖書コラム

 

第7回 「マリアは歌う」
上林順一郎

 12月、クリスマスを迎えました。クリスマスと言えば美しい歌、楽しい歌などよく知られた歌が数多くあります。クリスマスは歌の季節でもあります。
 ところで、聖書のなかで最初に歌を歌ったのは旧約聖書の登場するモーセとその姉のミリアムです。特にミリアムは小太鼓をたたき、踊りながら歌いました
 この二人の歌はいずれも神がイスラエルの人々をエジプトの支配から解放してくださったことを感謝する歌ですが、同時にエジプトの暴虐と圧政への抵抗の歌でもあります。
 モーセは「主はわたしの力、わたしの歌」と歌いました。主を賛美するには歌が最もふさわしいということでしょう。そして歌は賛美であると同時に、わたしの信仰の力となるからです。
 同じ名前を持つマリア(ミリアムのギリシア語名)もいま歌います。「わたしの魂は主をあがめ、私に霊は救い主である神を喜びます」 マニフィカートと呼ばれる賛歌です。しかしその歌は「主はそのみ腕で力をふるい、思い上がるものを打ち散らし、権力あるものを引き下ろされます」(ルカ1:51)若き女性の口から出る歌にしては過激です。彼女の歌も神の栄光への賛美であるとともに地上の支配者の権力や栄誉への批判、抵抗となるのです。
 かつて韓国の教会は独裁政権に対して激しく抵抗しましたが、その時多くの人々は歌を歌ってデモを行い抵抗を示し人々の心を結びつけ最後には独裁政権を倒す力となりました。
 マリアは歌を歌いつつ幼子イエスを抱いて困難な道へ歩み出そうとします。「主は私の歌、私の力である」歌が力であることを知っていたのです。
 「マリアはあゆみぬ、キリエ・エレイソン(主よ、あわれんでください)、茂げる森かげ、いばらのこみちを、キリエ・エレイソン」(讃美歌2編124)
 クリスマスの多くの歌の中でも最も美しいひとつです。

2020年12月


ウィンドウを閉じる