牧師の聖書コラム

 

第19回 「客間の外でのクリスマス」
上林順一郎

 クリスマスが近づくと、わたしは毎年「ある本」を読むことにしています。それはパール・バックの「わが心のクリスマス」という小さな本です。この本は彼女が人生において経験してきたクリスマスの思い出をつづったものです。
 パール・バックはアメリカ人の宣教師の子どもとして生まれ、おさなくして両親とともに中国に渡り、子ども時代を中国で過ごします。彼女が12歳の時、クリスマスの数週間前に黄河が氾濫し、近辺の町や村に大洪水が襲い寄せ、田畑や家を失った何千人、何万人という人々が難民となって彼女の住む町に押し寄せてきました。
 「クリスマスの当日、門の前で難民の女が赤ん坊を生んだ。ベツレヘムの子が生まれた時、その母は飼い葉おけに入れたが、わたしの母は産婦を家の中に入れ、母と子は部屋の中へ寝かせられた。しかし、2,3分後に赤ん坊が、続いて母親も息を引き取った。父親はどこにいるのだろう。その名もわからぬまま、二人のなきがらはキリスト教の墓地に葬られたのである。名もない母と子の二つの魂は、クリスマスの夜に星になったのだ。今でもクリスマスがくるたびに、ツリーが飾られ、家の中が平和な期待が満ちる時期になると、私は決まってあの親子を思い出し、誓いを新たにするのだった。彼らは今も生きている。飢えに悩まされ、戸口で倒れて死んでいくこの地上の多くの人々の中に、彼らは今も生きているのだ」
 これは100年以上も前の中国でのはなしです。しかし単なる「昔の物語」でしょうか?そうではありません。現在の世界のあちらこちらで今も起こっている出来事でもあるのです。
 “クリスマスの夜は、キャンドル灯して 祈りたい いつも自分のことばかり 住む家もない人のために 祈りたい。この夜だけは わたしにも なにかできるはずだと“ (晴佐久昌英『クリスマスの夜は』より)
2021年12月


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