牧師の聖書コラム

 

第43回 「闇の中で、光を」
上林順一郎

  世界中の地雷を撤去する運動に身を挺して参加していきた犬飼道子さんの本に、『一億の地雷、ひとりの私』(岩波書店)というのがあります。その本の中にはかつてユーゴスラビアの内戦が長年続く中で、戦場の中に置かれていた修道院の一人の若い修道女のことが書かれています。

 「長く続いたユーゴスラビアの内戦、その真っただ中に取り残された修道院がありました。その修道院がセルビア側の武装兵士たちによって襲撃され、修道院は破壊され、シスターたちは暴力を受け、また、レイプされた者もありました。一人のシスターが、その結果妊娠し次のような短い手紙を残して修道院を去っていきました。

 『院長様、わたしはこのままで修道院を去ります。おなかの中にいる子どもとともに。貧困がわたしを待っていますが、母と二人でふるさとの森に樹脂を取りに行って生計を立てるでしょう。

 そしてわたしは われわれの土地をずたずたにした憎悪怨念というものを断ち切るという人間にとって不可能なことを、今後一生の仕事といたしましょう。生まれ出てくる子に、わたしは日々刻刻、すべてのたったひとつのことを教えたいのです。『他人を、すべての他人を、愛すること』 暴力と憎悪によって生を受けたその子が、人間にとって唯一の名誉、つまり 愛と赦しの証人となるように・・・愛と赦しによる平和の建設者とこの子がなるように・・・」

 今年もクリスマスが近づいてきました。「見よ、おとめが身ごもって男の子を生む。その名はインマヌエルと呼ばれる。この名は『神は我々と共におられる』という意味である」(マタイによる福音書1:23)

 クリスマスは「愛と平和」の時とされてきましたが、今年のクリスマスは新たな戦争がクリスマスの地、パレスチナで起こりました。そして、世界各地で新たな対立や紛争が起こり始め、世界は再び闇の中に入ってしまったようです。

 しかし、聖書は告げます。「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。ヤコブよ、主の光の中を歩もう」(イザヤ書2:4,5)

 このクリスマス、主の裁きを待ちつつ、世界が主の光の中を歩む時となりますように祈ります。
2023年12月


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